第9話
二十歳そこそこの女性が、挑戦している。顔も知らない人が後押ししてくれるならできると信じている。信じているレベルではないかもしれない。頑張れと言う声援が彼女の心を奮い立たせるのだろう。羨ましい。素直にその声を聴けること。その声で行動に移せること。俺の人生ではできなかった。そう、群衆の最後尾で考えずに、その流れを進み能力的分岐点で別れていった。ただ誘導されていたのだ。
五十年も生きてきたのに、スケベサイトの二十代の女性に気づかされた。どれだけ薄っぺらい男だったのか。そりゃあ離婚もするし、心が屍にもなるだろう。
最初に感じた応援しようと思った気持ち。間違ってなかった。俺が気づかせてもらった今わかった。この娘に触れて、この娘の挑戦を通じて俺が新たな気づきで変われるかもしれないんだ。見続けなければダメなんだ。
ありがとうrio。泣いていた。エロサイト見て泣いてる五十代。酷い絵面だ。だが構わない。心に蓋をする必要はない。俺に心があったんだ。それを感じよう。
rioは頑張っていたようだ。気づきに対する恩返しがしたい。正社員ならコインを買えるだろう。コメントを送ろう。俺の声が画面越しに届くんだ。見守っていくよと伝えられる。たったそれだけのこと。そう、それだけのことが誇らしい。rioと一緒に変わっていけるのかも。今、水面に一滴の水が落とされた。こらから波紋が広がっていくだろうか。広がってほしい。心の芯から思いが出てきた。流された感情ではない俺から生まれた感情だ。嬉しい。まただ。泣いている。涙は心に癒しを与えてくれるらしい。あぁ、震えるよ。さざ波よ、屍だった心にその水を注いでくれ。
いつのまにかrioの画面は終わっていた。その痴態も喘ぎ声も頭には残っていなかった。そんなワクワクより大事な物をもらった。心という希望をもらったんだ。
乾杯したい。一人で自分に対して乾杯だ。沁みる。沁みていく。この前飲んだビールより美味い。生を感じる。生かしてもらった。涙が止まらない。
朝、鏡を見る。目が腫れぼったいか?それより生気があった。さあ、今日を始めよう。
職場に着き店長に昨日のことを伝える。とても喜んでくれた。俺のことを見ててくれた人がいる。俺のことなのに喜んでくれた。昨日の俺なら内心で戸惑っていただろう。今日の俺は素直に喜んだ。とりあえず今月の締め日までは働くことになった。笹本さんに伝え了承してもらった。変われた気持ちのまま歩いていきたい。そう願った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます