第8話

「お邪魔します……」



案内された部屋に恐る恐る上がる。



実は、ナオくんの部屋に上げてもらうのはこれが初めて。



1LDKの綺麗に整頓された室内は、几帳面な性格のナオくんらしく全然散らかっていなくて。



部屋自体に物は少なく、最低限の家具と私物が少し見えるくらいで、いかにも男の人の部屋って感じがした。



唯一、物で溢れているのはキッチン。



見たこともないような調理機器や器具が所狭しと並んでいて、殺風景な部屋の中でそこだけが浮いて見えた。



とは言っても、きちんと整頓されていて、やっぱり料理人って感じのする綺麗なキッチンだ。



「……あんまりじろじろ見んなよ」



珍しく恥ずかしそうな表情を見せるナオくんに、思わず胸がキュンとなる。



「この部屋には、まだ誰も入れたことなかったから、色々と片付けてねぇし」



言いながら手にしていた鞄をテレビ台の隣に置くナオくん。



……なるほど、そこが定位置なのね。



適当にソファーの上に放り投げたりしないところが、ナオくんらしいと思う。



「誰もって……彼女とかは?」



ナオくんに彼女がいるなんて話は聞いたことがなかったけど、私が知らないだけかもしれないし。



ナオくんとは幼なじみと言えど、彼が実家を離れてから今までの4年間は疎遠になっていたので、知らないことも多いかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る