第5話

「えっ? 誰に泣かされたの!?」



私の涙に気が付いた舞ちゃんは、慌てて椅子から立ち上がり、私を抱き締めてくれる。



その瞬間、舞ちゃんからふわりと苺の甘い香りがして、



――女としてもパティシエとしても、私はまだまだなんだなぁ、と胸が締め付けられた。



「知らない男に、追いかけられて……っ」



先程の恐怖を思い出して、喉の奥がつっかえた。



「ちょっと店の外見てくるから、松野さんはゆづと舞のことお願い」



ナオくんが、手にしていたお盆をカウンターテーブルの隅に置くと、1人で店の外へと出ていってしまった。



不安げに扉を見つめる私の背中を、



「大丈夫だから」



舞ちゃんが優しく撫でてくれる。



しばらくしてからナオくんが戻ってきて、



「今はこの近くに変なヤツは見かけなかったけど……」



困った顔をしながら、頬をポリポリと掻いた。



「ゆづ。1人で帰れそうか?」



ナオくんの質問に、何て答えようかと考える暇もなく、



「お前、本気で言ってんのか?」



「直人がそんなに冷たいヤツだったなんて、幻滅したわ」



友季さんと舞ちゃんがナオくんに冷ややかな声を浴びせた。

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