第9話

翌日。



この日は舞がシフトで休みの日なので、舞の従姉弟でルームメイトの間宮まみや 直人なおとが学校に出かける時間になっても、まだベッドの中で布団にくるまっていた。



舞の部屋の扉が小さくノックされ、



「……舞?」



扉を控えめに開けた直人が、恐る恐る顔を覗かせる。



「大丈夫か?」



「……ん」



顔を見せてくれず、声だけしか聞こえない舞に、



「はぁ……」



直人は小さく溜息をついた。



舞のベッドの脇のチェストに雑に放られた、ドーナツのキーホルダーが目に留まる。



少し前まで、舞はあのキーホルダーに付けられた銀色の鍵をニコニコしながら眺めたり、嬉しそうに指先でちょんちょんとつついたりしていたのに。



今は主を失ったかのように寂しそうに佇むキーホルダーに、



「……泣かすなって言ってんのに。あのクソオヤジ」



今の舞の姿が重なって見えて、直人は小さく舌打ちをした。



「舞? 朝ごはん冷蔵庫に入ってるから、ちゃんと温め直して食べるんだぞ?」



「……ん」



「食欲がないなら昼メシに回してくれてもいいから、絶対に少しは食べてくれよ?」



「……ん」



昨日の帰宅後から何を話しかけても同じ返事しかしない舞に、



「……友季アイツと別れて、俺と付き合う?」



そんな質問をぶつけてみた。



すぐに否定するかと思っていたのに、



「……ん」



舞のそんな返事に、



「へ……!?」



直人の方が慌てた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る