第8話

「1人で帰れるから、早くその女の人の所に行ってあげて」



「いや、だから――」



「これも、もう返すね」



舞はずっと手に握り締めたままになっていた友季の合鍵からドーナツのキーホルダーを外し、友季の手に押し付けた。



そのまま、友季に背を向けて歩き出す。



「ちょっ、舞!」



友季は慌てて舞を追いかけようとしたが、



「友季ー! はーやーくー!」



部屋の中の女性がしつこく呼ぶので、その場から動けなかった。



舞はそのまま、1人でマンションを出た。



「……トモくんの、馬鹿……」



誰もいない夜道を歩きながら、舞は服の袖でごしごしと両目をこする。



もしかすると、浮気相手は舞の方だったのかもしれない。



舞に手を出さなかったのも、本命女性に対する罪悪感があったからなのかもしれない、と思うと妙にすんなり納得出来た。



「うぅ……ぐすっ……」



暗く寒い夜道を1人でとぼとぼと歩きながら、舞はぐすぐすと泣き続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る