第6話

「……トモくん。唇の端に赤い口紅付いてるよ」



舞なら絶対に選ばないような、大人っぽい深紅の口紅。



それが、友季の唇の左端ににじんでいて。



誰かとキスをしていた証拠にしか見えなくて。



ショックを受けてもおかしくはない状況のはずなのに、自分でも驚く程、舞の心中は穏やかな静けさを保っていた。



「え……あっ……え!?」



右手の甲で唇を拭い、そこに付いた深みのある赤色を見て、友季は酷く慌て始める。



「えっ? なんでだ!?」



本気で不思議そうな反応を見せる友季の後ろ、その足元には、見覚えのない女物のパンプスがあった。



ハイヒールとまでは呼べないけれど、少しヒールのある、上品そうな白色のパンプス。



友季の唇に付いた口紅といい、このパンプスといい、大人の色気の漂う女性を想像せずにはいられない。



「……女の人、来てるの?」



冷静に訊ねると、



「……」



友季は何も答えず、困ったような表情を浮かべた。



その友季の後ろから、



「友季ー? 何してんのー?」



聞き覚えのない女性の、不機嫌そうな声が聞こえてきた。



「あ、あの、舞……」



友季が何か言いかけたが、



「……やっぱり、そういうことだったの?」



舞の言葉が、それを遮った。



「もしかして、トモくん……浮気してるの?」



“浮気”という言葉を口に出して初めて、舞の瞳から涙が溢れ出てきた。

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