第30話

一方その頃、厨房横の事務室では、



「……」



机に向かった友季が、1枚の用紙を見ながら何やら難しい顔をしていた。



その用紙とは――舞の履歴書だった。



「やっぱり、すげー似てる……よな?」



セクハラに厳しいこのご時世、本人の顔をジロジロと見るわけにはいかないので、履歴書に貼り付けられている写真をじーっと凝視する。



14年前、友季がまだ高校2年生だった頃に、転んで泣いていた小学生の女の子を助けたことがあった。



その時の小学生と、舞が似ているような気がしたのだ。



特に、昨日の苺ショートの切れ端を食べた時の舞の表情が、14年前に友季の作ったクッキーを食べた小学生の笑顔と酷似していた。



あの時の小学生も“将来はパティシエを目指す”と言っていたので、強く印象に残っている。



舞が、あの時の彼女なのか?



そう訊ねたくてうずうずしているのだが、



「……」



もし違った場合、新手のナンパだのセクハラだのと言われそうで、勇気が出なかった。



しかも、舞は何故だか知らないが、友季のことを酷く毛嫌いしている。



友季自身は、舞の仕事に対する姿勢には好感を持っているので、出来れば険悪な空気になるのは避けたいところ。



それに、舞があの時の彼女だったとして、だからどうなるという話でもない。



ただ単に、友季が気になっただけなのだ。

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