第29話

綺麗になった作業台の上に、友季はIHクッキングヒーターと小さなフライパンを置いた。



そして、小さなメモ用紙を舞に差し出し、



「ここに書かれてる分量だけ計量しといて。材料の場所は分かるよな?」



昨日上田に案内してもらったことを覚えているのかを確認した。



「はい。大丈夫です」



計量に必要な器具の場所も、昨日説明されたので、きちんと覚えている。



「じゃあ、計量が出来たら呼んで。俺は事務室にいるから」



腰から下に着けていた前掛けの紐を解きながら、友季は事務室の中へと消えていった。



残された舞は、



「……よし」



他の厨房スタッフたちがちらちらと横目で見守る中、1人黙々と計量を始めた。



メモに書かれている材料とIHから察するに、



(クレープでも焼くのかな……?)



そうとしか思えなかった。



きっとただのクレープではなく、ミルクレープを作るのだろう。



ミルクレープの“ミル”はフランス語で“1000枚の”という意味。



つまりは、“1000枚のクレープ”を意味する。



そこから転じて、何枚も重ねたクレープ生地の間にクリームやフルーツを挟んだケーキのことを、ミルクレープと呼ぶのである。



この店のミルクレープも大変に美味で、舞のお気に入りの1つだったりする。



そんな大好きなケーキの基礎となる部分を教えてもらえるのだと思うと、俄然やる気が出てくる。



舞は、わくわくした気持ちを抑えながら、計量を進めていった。

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