第28話

舞は出勤するなり、友季に



「この苺、全部ヘタ取りしといて」



昨日の倍はあるであろう量の苺のヘタ取りを任命された。



友季コイツは私を苺ヘタ取りマシーンとでも思っているのだろうか?



なんてそんな気さえしていたが、



「はい」



下積みなんてやはりそんなもんだよな、と考え直し、黙々と作業に取りかかった。



必死に手を動かしている間は、余計なことを考えなくて済むから。



だから今の舞には、黙々とやれる作業が丁度いいのかもしれない。



舞がヘタ取りをしているそのすぐ隣で、友季は苺ムースの仕込みをしていた。



友季自身のことは今日もやはり大嫌いではあるが、彼の仕事を見ているのはとても好きだと思う。



まるで魔法のように、美味しそうなスイーツが出来上がっていくから。



仕込みをしている作業台の上も、ほとんど汚すことなく綺麗に使われていて、動作の全てに無駄がないのだと思い知らされる。



それに引き換え舞は、たかが苺のヘタを取っているだけなのにあちこちにヘタや果汁が飛び散り、お世辞にも綺麗とは言い難い。



これがプロと見習いの差というものなのか。



舞が友季の仕事に見惚れていると、



「おい」



友季に呼ばれて、はっと我に返った。



「あとの苺はもう急ぎじゃないから、台の上を一旦片付けろ」



そう言われ、箱に入ったままの苺は冷蔵室へ持っていき、ゴミ箱から外れて飛び散ったヘタを拾い集めて、作業台を綺麗にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る