第33話

「金のために結婚するんだ。でなければ、俺があんなブス嫁にもらうわけねーだろ!」



賢祐は来年、大手財閥グループの総裁の令嬢と入籍することが決まっている。



俗に言う、逆玉の輿というやつだ。



希美はそのことをつい昨日、初めて賢祐から聞かされた。



けれども賢祐は、



「本当に好きなのは希美だけだから」



と別れない意志を示した。



それなのに、今日は希美の親友である姫花を紹介しろと言い出したのだ。



希美のスマホを勝手に開き、アルバムの中の姫花と撮った写真に目を付けた賢祐は、一目で姫花を気に入ったらしい。



「あんな美人と親友だなんて、お前と付き合ってた甲斐かいがあったよ」



賢祐は嬉しそうにニヤリと笑った。



「姫ちゃんには、絶対に会わせない」



痛む腹を抱え、希美は賢祐を睨みつけた。



「へぇ……それってヤキモチ?」



賢祐は相変わらずニヤニヤと笑っている。



(……“ヤキモチ”? ――違う、そんなんじゃない……)



何よりも大切な存在である姫花を、この男に会わせるわけには絶対にいかない。



こんなクズ、今すぐこちらから捨ててやるべきだと思うのに――



それでも、今まで過ごしてきた賢祐との思い出を――一番辛い時を支えてくれた賢祐の優しさを思い出してしまい、希美の心を引き留める。

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