第32話

その日の放課後、希美は部活を休んで、真っ直ぐに帰宅していた。



――彼氏から、呼び出しの連絡が入ったのだ。



希美が一人暮らしをしているアパートの室内で、



「で? 例の美人さんは、いつ俺に紹介してくれるの?」



明らかに不機嫌そうな男が、希美のベッドにドカッと座った。



希美は、コーヒーの入ったマグカップ2つをテーブルに置き、



「……彼氏のいる子だから、紹介出来ないよ」



悲しそうに俯いた。



「ケンちゃん……あの……」



「は? 使えねー女だな」



ケンちゃんと呼ばれた男――宮北みやきた 賢祐けんすけが、希美を鋭く睨みつけた。



「彼氏いようがいまいが、とにかく俺の前に連れて来いよ」



「……それで、どうするつもり?」



希美が恐る恐る訊ねると、



「味見してみて気に入ったら、お前と別れてその子と付き合う」



そんなことを平然と言ってのけた。



「……ケンちゃんには、婚約者もいるのに?」



希美の言葉に、



「お前、俺に逆らう気か!?」



ベッドから立ち上がった賢祐は、床に正座して座っていた希美の脇腹に蹴りを入れた。



「痛っ!!」



その痛みに、希美は蹴られた腹部を両手で押さえてうずくまる。

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