第30話

でも……と希美は思う。



(本当に好きになった人にフラれたら、私もそうなるんだろうな……)



最近、彼氏と上手くいってはいないが、別にフラれたというわけではない希美は、まだ平静を保てている。



(私は、まだ大丈夫……)



もう少しなら、きっとまだ頑張れる。



だから、大丈夫な間は、まだ誰にも気付かれたくない。



本当は心が泣いていることを、誰かに気付かれたら……



その時はきっと、本当に泣き出してしまうから。



特に、一番仲良しの姫花には、余計な心配はかけたくないから。



希美は胸に当てた右手をぎゅっと握り締め、誰にも気付かれないように唇を噛み締めた。



希美のその表情を、女子の隙間からちらりと覗き見た頼斗だけは密かに気付いていて、



「……?」



訝しげに首を傾げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る