第6話

「最近イルナとの時間が取れていない。定例だった茶会も中止にされて俺は不満だ


「はいはい。不満なのですね。おかわいそうに。ですが今は反イルナ波を炙り出す好機なのですよ。イルナ様のためにも自重してください」


それを言われたら弱い。

俺はイルナなしではもう生きられない。もしイルナが謀殺されればきっと後を追うだろう。

アベルもそれに気が付いているので反対派の炙り出しに躍起になっているのだ。


「そういえばマリア嬢がよくお前に菓子を差し入れしているな」


「っ!ご覧になっていたのですか?」


「まあな。お前自身どう思っているのだ?


「マリア嬢は本来ディオス様に恋をする予定の方ですので、正直不安ではありますが、イルナ嬢と親友になられているようなので…もうディオス様には興味がないと判断して、そのうちプロポーズをする予定です」


「お前は色々とすっ飛ばすな。まずは交際だろうが」


「いえ、噂ではマリア嬢は男性からの人気が高いとのこと。早めに唾をつけておきたいのです」


「まあ、お前がそれで幸せならいいよ」


アベルにそう言った後に呟いた


「イルナに会いたい」


今日何度目かわからない愚痴をこぼす。

アベルはハイハイと言った様子で赤子を諌めるように言った。


「では今日はイルナ嬢との茶の時間を設けますからそれで我慢してください。」

 

「ほんとうか?ありがとうアベル!」


イルナに最後に会ったのはいつぐらいぶりだろう。まともに口も聞かないまま何週間もほったらかしでさぞ怒っているだろうとお茶の時間が楽しみでもあり、不安でもあった。


「そうだ!イルナの好みそうな本を用意しよう。

たしか海外からとどいたらブロマンスの本があったはず!」


ウキウキしながら本を用意し始めたのだった。

それから後、数週間ぶりのイルナに出会えた。

ここが現代なら抱きしめてキスをするところだろうが、今は一国の王太子、そんな真似はできない。


「イルナ、久しぶりだな。会いたかったよ」


「私もおあいとうございました」


イルナは丁寧なお辞儀をして席についた。

普段なら手の甲にキスくらいさせてくれるのに余りにも冷たすぎないか。


ディオスはすこし不満に思いつつもイルナに数十冊の本を渡した。


「隣国で流行っている本だ。イルナは確か隣国の言葉に詳しいと思って持ってきたのだどうだ?」


だがイルナはわずかに微笑んだばかりだった。「ひさびさだな。げんきにしていたか?」


俺は今すぐ抱きしめたいのを我慢して冷静に切り出した。だが彼女の顔は感情の読めない顔をしている。


「そうだ!ここのところ隣国で流行っている本を何冊か入手したのでお前に渡したいのだ。アベル」


アベルは何冊かの本を彼女のそばに置いた。だが彼女はニコラと笑ってからまた茶を飲んだ。


時間が経てばわかってくる。彼女はおこっているのだと。


ニコニコと笑顔を崩さないのはさすが厳しい妃教育の賜物だろう。


「すまない。このような席しかもうけらなかったのだ。情勢が落ち着いたらお忍びでまちにでも行こう」


そういうとようやく彼女の表情が変わった。我慢していた悲しみと怒りをないまぜにしたような、悲痛な表情だった。


彼女にこんな顔させるなんて何と言うことだ。

俺はマナーも無視して席を立つと彼女の元に向かうとギュッとだきしめてその薔薇色の頬にキスをした。

「ディアス様…」


イルナは戸惑いながらも嬉しかったようでうっとりと俺に身体を預けた。


「ずっとこうしたかった。今はお前の反対派勢力の炙り出しで公務が忙しくて、イルナにあえないのでは本末転倒だな」


俺が言うとイルナはポロリと涙を一粒だけ流した。妃教育には人前で涙を流さないと言うものがある。いつでも同じ表情、それが外交にも求められたのでそれを破ってでもこぼした涙には価値があった。


「申し訳ござません。嬉しくて。はしたないですね。恥ずかしいです」


「そんなことはない。おれの前では妃ででいる必要はないんだ。ただのイルナでいてくれ」


そういうと俺は名残惜しいが時間になってしまったのでもう一度強くイルナを抱きしめてから業務にもどった

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