第34話

この家には、実はコーヒーは常備されていない。



桐生家は断然、お茶派だ。



コーヒーがない分、日本茶や紅茶など、茶葉の種類は豊富に揃えられているが。



姫花の母が茶道家の名家の出身とかで、お茶の淹れ方にとても厳しいのだが、その分美味しさも一入ひとしお



苦手なことの多い姫花も、お茶の淹れ方だけはとても上手かった。



大体のお茶なら美味しく淹れることが出来るし、抹茶を立てることだって出来る。



それを知っていた唯は、どんなお茶を飲ませてくれるのだろうと、わくわくした。



嬉しそうな唯を見ていると、つい意地悪をしたくなった姫花は、



「……お抹茶にする?」



ぶっきらぼうに唯に訊ねた。



「……」



仲直りがしたくて謝りに行った先で、出されるお茶がお抹茶って……



作法に自信のない唯は、いいとも悪いとも言えずに黙ってしまった。



「姫花」



娘の意地悪に気付いた父が、睨みを利かせてきた。



「……紅茶でいい?」



「うん、ありがとう」



唯が嬉しそうにはにかんだ丁度その時、エレベーターが目的のフロアに到着し、チーンと音を鳴らした。

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