第33話

「そんな所で、何をしているんだ?」



玄関ホール内に突然響いた低い声に、姫花の肩が反射的にびくっと震えた。



恐る恐る、声のした方を振り返ると――



「……父さん」



仕事を終えて帰ってきた父が、怪訝けげんそうな顔をしながら立っていた。



「あ、こんにちは」



もう桐生家とは長い付き合いになる唯は、相手が超有名な元人気モデルだとしても、ものじすることなく挨拶をした。



「唯君、こんにちは」



無愛想な父にしては珍しく、唯にふわりと優しい笑みを向けている。



そして、唯が姫花のバッグを持っているのを見て、



「こんな所で話なんかしていないで、部屋に入れてやれよ」



気の利かない娘に、呆れた視線を投げかけた。



「だって……」



俯く姫花に、



「頼斗には、邪魔をするなと俺からも言っておくから」



丁度扉の開いたエレベーターに乗るよう、視線で促す。



「……じゃあ、お茶れるから上がって」



「うん」



姫花の淹れるお茶が飲めると知った唯は、嬉しそうに頷いた。

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