第28話

時は30分程前にさかのぼる。



姫花のファーストキスを奪うべく、唯は姫花にそっと顔を寄せ――



何をされるのかと唯を凝視する蒼い瞳と、目が合った。



まるで宝石のようにキラキラと煌めくその瞳に、一瞬で心を奪われた。



と同時に、自分がとんでもなく最低なことをしようとしていることに気付く。



こんなことをしたところで、姫花の気持ちが手に入るわけなんてないのに。



「……」



我に返った唯は、姫花から離れようとして、でも今離れても不自然だよな、と思い悩み……



「あ……」



ふと、姫花の顔に違和感があることに気付いた。



姫花の綺麗に真っ直ぐ下りた前髪を、指先でそっとすくう。



あらわになった額に、赤く腫れたニキビが出来ているのを発見した。



「でっかいニキビ……痛そうだな」



「……っ!」



姫花はもの凄い速さで唯から離れて距離を置き、両手で額を押さえて隠した。



「見られないように前髪で隠してたのに……!!」



そう言った姫花の声は、小刻みに震えていた。



……あ、これ姫花が泣きたいのを我慢している時の声だ。



そう気付いた時には、もう既に遅く、



「唯のばかぁ!!」



姫花は自分の持ち込んだ勉強道具も全て置き去りにしたまま、走って部屋を出て行ってしまった。

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