第32話

嬉しそうな顔から悲しそうな顔へと一転させた祐也は、



「え……あ……うん……ないない、ないよ」



ただ頷くだけの首振り人形みたいになっていた。



「……にぃちゃん、そこはバシッと言った方がかっこええんやで」



朝日は祐也に気の毒そうな視線を送った。



「まぁ、俺は沙那ちゃん狙いやから、他はどうでもええんやけど」



そんな朝日の台詞に、



「なっ……」



「えっ……」



祐也と陽は、ギギギギ……と首から音が鳴りそうな動きで、ゆっくりと純を振り返った。



純は何も言わなかったが、



「……」



2人がかつて見たこともない程の険しい表情で、朝日を鋭く睨んでいた。



朝日を睨んでいる間も、純は蕎麦を食べる手を止めなかったのだが――



手元を一切見ていないので、純の箸には蕎麦が1本ずつしか引っかかっていない。



鬼の形相で蕎麦を1本ずつちまちまとすする純の様子は非常に笑えるのだが――



ここで笑い声を出せる程の勇気を、祐也と陽は持ち合わせてはいない。



2人して見なかったことにして、俯いて笑いを堪えた。

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