第29話

「純が喧嘩するたんびに社長が裏で処理してるんも知ってるからな」



朝日は、ニヤリといやらしい笑みを浮かべた。



「お前をこの世界で潰す方法なんか、いくらでもあるさかい」



「……」



「お前のその澄ました顔、絶対に俺が乱してやるからな……想像しただけでゾクゾクするわ」



純にだけそう聞こえるように小声で言い放った朝日は、



「社長〜、俺は大丈夫やから気にせんといて下さーい」



突然、いつもテレビで見せているような明るい笑顔を浮かべた。



その様子を、



「……!?」



沙那は青ざめた表情で眺め、



「……」



純は厳しい顔を、ますます険しく歪めた。



「おぉ。ええ顔するやん」



朝日は嬉しそうに笑うと、



「ほな、俺はこれで失礼します〜」



元来た道を引き返すように去っていった。



「全く……先輩に掴みかかるなんて、何してるのよ、桐生!」



三上に注意され、



「……すみません」



純は項垂れた。



「あの、三上さん……」



沙那が、おずおずと三上の前に出てきた。



「スーは、悪くないんです。私のことを庇ってくれただけで……」



そんな沙那に、三上は小さく溜息をついた。



「分かってるわ。沙那ちゃんのことでしか怒らないもの、桐生は」



「……」



純は気まずそうに黙ったまま。



「方法が良くないって言ってるの」



「……すみません」



相変わらず項垂れたままの純を見て、



「やっぱり、あの瀬戸って子……何かありそうよね」



三上は顎に手をやり、考え込んだ。



何か厄介なことが起こらなければいいのだが――

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