第32話

「う~……」



真っ白になったパスタを、沙那は険しい顔をしながらも器用に混ぜていく。



そして、スプーンとフォークを駆使して綺麗に巻いたパスタを口の中に押し込み――顔をしかめた。



「……チーズの味しかしない」



でしょうね。



「……」



そんな沙那を、陽は俯き、声を殺して笑う。



「最近ボーっとしすぎだけど、大丈夫?」



笑うのをやめ、急に真面目な顔をして聞いてくる陽に、沙那の涙腺は緩みそうになり――



「沙那がボーっとしているのは、いつものことだろう?」



突然聞こえた低い声に、沙那はハッとしたように後ろを振り返り、陽は慌てて顔を上げる。



2人の視線の先には、片手にオムライスの乗った皿を持っている純の姿。



「き、桐生さん!」



そんな純に反応したのは沙那ではなく、陽だった。



「一緒に食べてもいいか?」



びっくりまなこで純を見つめる陽に、純は優しく笑いかけた。



陽は、慌てたように首を何度も縦に振る。



「どうぞどうぞ!」



純は、



「すまんな」



と言いながら沙那の隣の席に腰を降ろし、



「あっ!!」



沙那の前にあったパスタの皿を取り上げると、代わりに自分の持っていたオムライスの皿をそこに置いた。



「……ったく、このバカが」



沙那にしか聞こえないくらいの小さな声に、沙那は頬を膨らませる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る