第30話

直後、祐也の顔から、すっと表情が消える。



「……それって、俺から沙那を奪うつもりだってこと?」



そういう意味としか取れない発言だったが、当の本人はというと、静かに首を横に振る。



「俺は、沙那が嫌がるようなことをするつもりは全くない」



はっきりとそう口にした純の表情は凛としてはいるが、どこか切なそうで……



祐也は、思わず純から目を逸らした。



「……桐生らしいな」



昔っから何も変わっていないと思いつつも、そんな切ない顔もするようになったんだと思い……



悪い風にしか変われなかった自分が、もの凄く惨めに思えてしまう。



「……沙那とは、もうダメかもしれない」



突然ぽつりとそんなことを漏らした祐也に、純は怪訝そうな瞳を向けた。



祐也は、そんな純の顔を横目でちらりと確認し、



「俺、沙那に酷いことばっかりしてきたから……」



と乾いたように自嘲した。



「そういえば、沙那、泣いていたな」



「……」



純の低い声に、祐也は黙ったまま俯く。



「お前を想って泣いてたんだぞ?」



「へ……?」



祐也はその言葉の意味が分からず、慌てて顔を上げた。



「嫌いな男のために涙を流す程、あいつも愚かではないということだ」



「……」



祐也はしばらく黙り込んでから、



「昔っから思ってたんだけど……お前の日本語って、何か古臭いよな?」



「……もう二度と、慰めてはやらんからな」



純は、露骨に顔をしかめて祐也を鋭く睨みつけた。



そんな純に、祐也はただただクスクス笑うだけだった。

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