第28話
「……桜の、クッキー?」
紙袋の中には、桜の葉が練り込まれて焼かれたクッキーが入っていた。
「これ、どうしたの?」
「今日の午後、仕事に行ったら現場のスタッフに貰ったんだ。俺は甘いものは好きじゃないから、沙那にやる」
純の仕事……
それは多分、モデルの仕事のことだろう。
昔はよく一緒に遊んでいたのに、純とはもう生きている世界が違うんだ……
そう思うと、何だか凄く悲しくなる。
「どうした?」
「あっ、ううん。何でもないの!」
沙那は慌てて首を横に振る。
「これ、ありがとね。今、お茶淹れるから」
「いや、いい。俺はそろそろ帰るから」
そう言って立ち上がる純に、沙那は思わずすがりついていた。
「なんで、もう帰っちゃうの?」
そんな沙那を見て、純はふっと笑う。
「それは、俺を誘っているのか?」
「えっ……!?」
沙那は慌てて純から離れた。
「寂しくなったら、いつでも連絡してこい。話聞くくらいならしてやるから」
純は、沙那の頭をぽんぽんと優しく撫でると、昨日の時みたいに静かに部屋を出て行った。
純が帰ってしまった後で、沙那はふとバッグに手を伸ばし、中からスマホを探り出した。
そして、今日純から届いたものの、まだ読んでいなかったLINEメッセージを初めて開く。
そのメッセージには、
『沙那の好きそうな菓子が手に入ったから、今日家まで渡しに行く』
純らしい無愛想な文章でそう書かれていた。
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