第7話

その人混みはどういう訳か、在学生も含む女性ばかりで出来ていた。



沙那と祐也はその女子だらけの人混みを掻き分けて、その中心を見ようと懸命に背伸びをする。



その中心にいるのは、ある1人の男。



「あっ……!」



男の姿を確認した瞬間、祐也は声を上げた。



「えっ、何?」



沙那は、女子の中では比較的背は高い方だが、この人の多さでは流石に先の方までは見えない。



なので、懸命にジャンプを続ける。



そんな沙那に、中心にいた男は気が付いて……



「……沙那?」



低い声が響き、それまで騒がしかったギャラリーが急に押し黙る。



彼はゆっくりと沙那に歩み寄り、それと同時にギャラリーは道を開けた。



人で出来た道を突き進み、沙那の目の前までやってきた彼は、



漆黒の髪をサラサラと風になびかせ、少し長めの前髪の隙間からは、湖の底のような蒼い瞳がきらめいている。



しかも、沙那と並ぶと沙那が小人に見えてしまうほどの長身の持ち主。



……何か、雑誌で見たことがある感じの人。



そういえば、この人って前までは髪が腰ぐらいまで伸びてて、でも最近になってそれをバッサリ切っちゃって、ますます人気が上がったらしいモデルさん。



確か名前は――



「きりゅう……じゅん?」



漢字で書くと確か“桐生純”、だったと思う。



沙那が彼の名を呟くと、目の前の彼は不機嫌そうにその蒼い目を細めた。



……ちょっと怖そうな人だ。



沙那が怯えた表情で一歩後ろへ下がる。



すると、沙那の後ろに立っていた祐也が、小さく溜息をついた。



「沙那……“じゅん”じゃなくて“すなお”って読むんだよ」



「……へ?」



つまり、“純”と書いて“すなお”。



「……きりゅう、すなお……?」



呆然と復唱する沙那。

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