第76話

泉のほとりに、オルラらしき人が座っていた。


フードを被っているから本当にオルラかどうかはわからないが、なんとなく俺はオルラだと思った。



まさかこんなすぐに会えると思ってなかった俺は心の準備ができておらず少し焦る。



オルラはまだ俺がいることに気付いていないようで泉の方を向いている。




気付かれないように深呼吸をしてから、一歩を踏み出した。





「…くると思ってたわよ、クロノス」



「っ!…お、俺がいることに気付いてたのかよ」


「だって貴方、魔力量が多いでしょ。隠しきれてないのよ」





やはり座っていたのはオルラで。泉の方を見たまま話しかけてきた。



つか、魔力量…なんて感知できないだろ、普通は。


なんでわかるんだよ…。




俺は早足でオルラの隣に行く。



そして隣に座るとオルラの方をしっかり見て、俺は自分の答えを切り出した。






「……昨日の、答えだけど」


「ええ」




「魔族や魔物が正しいとは思わねえ。でも人間が正しい訳でもない。両方間違ってる。どちらも、“悪”だ」





こちらを見るオルラの藍色の瞳が揺れる。


それでも俺はしっかりとオルラを見つめた。



魔族も魔物も何人も何匹も殺してきた俺は、魔王に殺されても仕方ないのかもしれない。


でも俺も、人間を殺してきた魔族を許す事はできない。



だからどちらも罪と罰を受け入れるべきなんだと思う。





「……そうね。私もそう思うわ。殺しじゃ何も解決できないのよ」


「…俺はその事実から目を背け続けてここまで来てしまったけどな」



「いいわよ。気付いて、受け入れてくれたなら」





オルラは俺の顔を見て微笑んだ。



……っ。なんだこれ…顔が火照る。


赤くなった顔を見られたくなくて思わず顔を逸らす。




くそ…なんだよあの笑顔。今まで見てきた誰の笑顔よりも可愛い…ってそうじゃねえ。



あー、ほんとなんなんだよ。訳分かんねえ。





「とっ、ところでオルラは一体何者なんだよ?!」



「………………魔王、だと言ったら貴方はどうするのかしらね」


「……魔王、なのか?」





何気なく訊いた一言にとんでもない答えが返ってきて驚く。



オ、オルラが魔王…だと。そうは見えないが…。




俺の質問にオルラは悲しそうに笑ってフードに手をかけた。

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