第75話

少し悲しそうなオルラの声を最後に俺は意識を失った。





目を覚ますと俺は街の外れに寝転がっていた。


周りには眠ったままの仲間たちの姿もある。





……どういう、ことだ?






「オルラ…」






彼女は一体、何者だったんだ。



魔族や魔物が悪だと思うか、なんて俺に訊いてきて。


そんなの、悪に決まっ……て。



そこまで考えた時、過去の記憶がフラッシュバックした。








――――

―――



「お母さんっ!!!お母さん返事してよ…!!なんで、なんでお母さんを殺すのっ…?!!!」



「なんだ。あの魔族、子供を隠していたのか」




(師匠まさか、この子も殺す気じゃ)



「…それはな、魔族は『絶対悪』だからだ」









あの時、俺をこの世界に召喚し、剣を教えてくれた師である男はそう言って魔族の子を殺した。



でも俺は、本当は薄々気づいていたんだ。でも見ないふりをした。知らないふりをした。




魔族や魔物にも、家族や友達がいることを。殺したら悲しむ誰かがいることを。



俺達は魔族を何人殺した?魔物を何匹殺した?



魔族からしてみれば、自分達を殺す人間が悪。




人間も魔族も同罪だ。





気付いていたのに気付いていないふりをして、先頭に立ち殺しを続けた俺は、勇者なんかじゃない。



――――ただの人殺し。






っ…。







「ん…勇者様?どうなさったので……すか、」



「あ?…ああ、目を覚ましたのか。じゃあ他の奴らにも言っておいてくれ。魔王倒しに行くのはとりあえず中止だ、って」




「は…?何を」


「じゃ、俺ちょっと用事あるからみんなは修行にでも励むよーにな」






目を覚ました魔法使いにそう告げて、俺は転移した。



みんなから、逃げた。





転移した先は昨日オルラに会った泉。



なんとなく、もう一度会いたくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る