第74話

俺の手に触れた水は聖の加護によって清められるからこうして顔を洗うことができる。



…神ってのは気まぐれだよな。


みんな平等に加護を与えるべきだろ、普通は。






「貴方、なんて名前なのよ?」



「っ!?」






音も気配もなく唐突に、後ろから声をかけられた。


驚いた俺は咄嗟に戦闘態勢に入る。




が、振り向いた先にいたのは気の強そうな藍色の瞳をした女だった。


フードつきのマントをしてるが…あの顔つきと声は確実に女のものだ。



なんで、こんなところに女が?



不思議に思った俺は思わずじっとその女を眺める。






「なによ。質問してるんだから答えなさいよね」



「あ、俺はクロノス…あんたは?」




「…………わっ、私!?オ、オルラよ」






名前を訊かれて驚いたようにわたわたと答えるオルラ、と言う名前の女。


強気なのかなんなのかよくわからない奴だな。



まあでも、不思議と嫌じゃない。




そんなことよりこんな森に女が一人でいたら危ねえんじゃないか?





「なあ、オルラはなんでこんなところにいるんだよ」


「な、なななな名前っ…よ、呼び捨てっ」



「なんだ、ダメだったか?」





俺の問いにオルラはぶんぶんと首を横に振る。



俯いているためどんな表情をしているのか見えないが…まあダメじゃないのならいいか。



……とりあえずこの森に女一人でいるのは危険だし家に帰してやらねえとな。



俺はオルラの方に近寄りながら声をかける。






「女一人じゃこの森は危険だろ、家はどこだよ?転移してやる」



「――――危険、ね」




「……どうしたんだよ?」






「貴方は、本当に魔族や魔物が悪だと思う?」






雰囲気ががらっと変わった。


藍色の瞳でしっかりとこちらを見る彼女に、俺は若干の畏怖を覚える。



なんだ、これ。




俺より一回りも小さいと思われる体から発される殺気にも似たオーラが。


俺の体を動けなくさせる。






「……っ、」




「今の貴方じゃ、魔王は倒せない」


「何、を」





力が入らなくなり、思わず膝をつく。



何を、言ってるんだ。


なんで俺は動けないんだ。


なんで、こいつは俺が勇者だと知っているんだ。


こいつは…一体何者なんだ。





「またね、クロノス」

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