第5話

2012年6月22日金曜日



「あたしはこれで失礼します。」


月曜に異動する上司の送別会。


お酌して回る気皆無で端の席で可愛げもなく

只管ビールジョッキを傾けたあたしは

柏木くんに心配されて

適当にやり過ごしていた。


店を出ると、柏木くんが居ない隙にあたしは立ち去る。

じゃないと彼は送るなんて言い出すだろう。



柏木くんは唯一あたしを主任として、同じ働き手として認めてくれる大切な後輩。


だからあたしみたいな異分子のせいで孤立しないで貰いたい。



何気に美味しいお店だったのが幸いと

あたしは一人、ヒールを鳴らした。



一人酒を躊躇う歳でもない。

たまには良いかなと、藍色の暖簾を掲げた居酒屋にフラリ入る。



賑やかな大衆居酒屋が今のあたしには丁度良い。


静かすぎたら自分の溜め息が聞こえてしまいそうで。



椅子に座って、ヒールを踵から外して、痛い足を労う。

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