第6話
ジュブッジュブッとローファーは耳障りな音と妙な履き心地。
構わずどしゃ降りの雨を走る。
濡れた制服はじっとりと重たい。
時雨は着物だからもっと重たいし、着物の裾が脚にまとわりついて走りにくいだろうと思う。
千紗を長いこと雨晒しにしない為に
面倒だからと傘を持たない時雨が走る。
面倒臭がりなのに迎えに来る矛盾。
いつも自分を大切に扱う事は大きな矛盾だと、千紗は思う。
そしてその度に罪悪感の様な物を感じた。
泣く事は許されない。そんな狡い事がどうして出来る?
歯を食いしばった。
時雨と隣りあって住まうマンションの鍵を取り出すからと、千紗と彼の手は放れた。
マンションの建物内、エレベーター、部屋の前。
無言のままで、鍵を、ドアを開けた途端
「え?ちょ、時雨?」
乱雑に下駄を脱ぎ捨て照明の付いていない室内へズカズカと濡れたまま真っ直ぐに足を進め
「いた、い!…痛い!」
時雨は出してきたタオルで千紗の頭をがしゃがしゃと拭き始めたと思いきや
はたり、千紗の声に動きを止めた。
面倒臭がりだからだろうか。
頭にタオルを置き去りにして。
「僕が起きたとき」
そう呟き、千紗の背に合わせて膝を曲げた。
幼子にするようなそれだった。
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