第3話

「え?降ってるんですか?」


レストランの手狭なスタッフルームに木村千紗(キムラ チサ)の素っ頓狂な声が嫌に響く。


貸与されているエプロンを洗濯にとバッグへ詰めていた手が止まっていた。



その驚き様に苦笑するのは、バイトの先輩で大学3年生の森下結菜(モリシタ ユナ)。

濃いメイクの崩れ加減でどれだけ忙しかったかが分かる。

謂わば"繁忙バロメーター"だ。



「うん。さっきからね。」



それが本当なら洗濯物は今頃。

…って、それどころじゃない。



「わ、私、お先に失礼します!」


森下は苦笑。慌てた千紗にではなく

千紗が慌てる原因に対してだろう。


先を急ぎながらも冷静な千紗の頭がそう処理をしていた。

だから手は折り畳み傘を袋から出している。


厨房を横切ってフロア、そしてレジ。

そこにいた店長に挨拶をした。



ドアを開けた途端、サーッと雨音が聞こえて、白い雨脚が見える。


店を出てすぐ横の外壁に凭れている人物へと傘を開いて差し出した。



「やっぱり!」

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