第27話
まるで、珠璃自身がそんな体験をしたことがあるようなその言葉に、春嘉はなにも言えなくなって、けれど、珠璃の言葉に心が揺さぶられたのだ。
言いたいこと、そう。たしかにある。どうしても、聞きたいことが。だからこそ。
「………わかりました、珠璃。あなたの囮の案に、乗って差し上げます」
『ちょっと、青龍!? なに言ってるの!?』
「仕方がないでしょう。言い出したら聞かない、困った子なんですから。ただし、囮をする際には必ずその兎の神使様を連れ立ってください。それが条件です」
「……えっ、でも、兎なんですけど……めっちゃ被食者として狙われそうなんですけど?」
「珠璃の先ほどの理論から言えば、声を上げ続ければおそらく大丈夫でしょう。それに、ここまで大きな被害になったのに、神使様がなにもしない、なんてそんな無責任なことはさせませんよ」
にっこりと笑いながら、春嘉がそんなことを言う。
目の前に鬼がいる。鬼畜がいる! と叫びたかったけれど、彼はもともとこういう性格なのか、珠璃とは違い、鈴や晟はため息をついている。いやいやいや、こういうときこそ止めてよ! と思いつつ、きっと無駄だとわかっているからこそ口をつぐんでいるんだろうなということも理解できてしまうため、珠璃もなにも言えなくなったのはいうまでもない。
こうなったら足元にいる兎になんとか説得してもらうしかないと思い、兎を見れば兎はさも当たり前かのように普通に頷いている。感覚がおかしいのか私は、と思わず思ってしまったのは仕方のないことだと思いたい。
『もちろん、この方の安全を守るためにも、ボクはついていきます』
「話が早くてとても助かります。さて、ではそれをいつ実行するか、ですね。珠璃はまた怪我をしていますし……」
「え、私なら別に大丈夫だけれども……」
「何をおっしゃっているのですか、珠璃様! 全然癒えていないその体で無茶をするなんてさせるはずがないでしょう!」
「鈴さん……私は本当に大丈夫ですよ? まあ、たしかに痛いなーとは思いますけど、我慢できなほどではありませんし」
『……前々から聞きたいなーとは思っていたんだけどさ、珠璃、ちょっと痛みに対して鈍感すぎない?』
「え? そうかな……?」
小鳥のその一言に珠璃だけがこてりと首を傾げたけれど、逆に言えば珠璃以外の人たちは全員が小鳥の言葉に頷いた。まだ一緒にいて間もない兎までもがこくこくと頷いているのだからよっぽどだろう。そんなにも? と首を傾げながら、珠璃は思い当たることを口にする。
「……多分だけど、私を拾って育ててくれた老夫婦の扱き方がすごかったんだと思う」
『……どんだけ痛めつけられていたの!?』
「人聞きの悪いこと言わないで。すっごく優しい人たちだったんだよ。この先生きるためにはちゃんと力をつけておかないといけないって言われて、そのまま剣の扱い方とか、なんか色々と教えてもらったの」
『それ本当に必要なことだったの!?』
「必要必要! お陰で自分の身は自分で守れたもの! すっごく感謝したわ」
そんなに強いのか、と言う疑問はなんとか飲み込んで、しばらく、その場がしんと静まり返ってしまったのは仕方のないことである。
そんな微妙な空気になってしまったのを感じた珠璃はあれ、何かおかしなことを言ったかな、とちょっと焦りながらもだからと言葉を続けた。
「えっと、私が言いたかったのは、そのおかげで多少の痛みには慣れているから動きには全然問題もないわ。だから、全然明日とかにしてもらっても問題ないわ」
「い、いや、さすがに明日にすぐにと言うのは……」
「でも、時間がないのは春嘉さんだって分かってるはずですよね? 悩んで、手をこまねいている場合ではないかと思いますが?」
「……珠璃……」
「でも、間違ったことは言っていないでしょう?」
そう言った珠璃の瞳は真剣で、春嘉も何も言い返せなくなってしまう。それは、彼女の言っていることになんの反論もできないからで、結局の所、珠璃の言っている案が一番現実的なことなのだ。本来ならば、このような荒ごとになど巻き込みたくはないが、それでもあの黒い靄に覆われた寅の神使が珠璃を狙っているのはたしかで、そして珠璃にはそれを退けるほどの力があることもたしかなのだ。全てを統括して考えても、珠璃を使う事に躊躇いなどを見せている場合ではない。
だからこそ。
「……わかり、ました。珠璃、あなたのその案を、全て受け入れます。実行は明日。それまでは、十分に体を休めてください」
「はい、ありがとうございます。春嘉さん」
そう言って、春嘉と晟はその場を後にする。鈴は同性ということもあり、珠璃の世話を申し出てそのまま珠璃と共に寝るコトとなった。
珠璃の体調を心配しながら、春嘉たちも事前にとっておいて部屋まで足を運び、室内に入る。と。
『なんでまたボクまで連れて来るわけ!? 意味わからない!!』
春嘉が鷲掴みにしていた小鳥が声を上げたが、春嘉はそれを見事に無視し、鳥籠の中にポイッと放り込んでしっかりと鍵をかける、ついでに春嘉の能力で鳥籠の中から逃げられないようにツタを絡ませて隙間をこれ以上ないほどに小さくし、小鳥が逃げないように工夫までしてしまう。それに抗議の声を上げた小鳥だったが、春嘉は一言、オスが珠璃と共に眠るなんてとんでもないし、許せないからだと一言申し、そのまま眠るための準備に入ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます