第29話

「本当にやばい人じゃん」


「でしょう。お父さんから聞いた話によると、1回食べただけで同じ物が作れるらしいわ」


「えぇっ、1回だけで?凄すぎ」


「ねー。何でも味覚が鋭い上に、技術も知識も発想も他人とは一味違うんですって」




“いい子が入ったわ〜。これで、この店も安泰ね”と、お母さんは雑誌を胸に抱えて目を輝かせる。




しかし、そんなお菓子の革命児みたいな天才が何故うちの店に?って軽く疑問。



わざわざ店まで鞍替えして信じられない。


何か裏がありそう。




「そんな凄い人が、どうして、わざわざ店を変えてまでうちの店に?」


「さぁ?うちのお菓子と、お祖母ちゃんに惚れて面接にきたって聞いたけど」


「お菓子と……、お祖母ちゃん?」


「ババ専とかそんなんじゃないわよ。心意気の方ね」




疑いの眼差しを向けた私に、お母さんはさっぱりと否定しながら困ったように笑った。



とにかく明日になれば全てわかるわよ、と。

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