第32話

「ごめん。澤田君」


「もういい。帰る」


「まぁまぁまぁ。ほら、ここの答え。全ての物質は魂から出来ている、で正解でしょ?」


「アホか。原子だろ」


「え……。源氏?誰それ?」



目を細めて真剣に問うた私に澤田君は「面倒くせー」と言って溜め息を吐いた。


白けた顔を向けられて思わず首を傾げてしまう。



そんな私の反応ははたから見ても滑稽だったんだろう。


いつもは無口な小春ちゃんが「ごめん、おかし……っ」と謝りながらクスクスと笑い始めた。


真剣に聞いたんだけどなー。


おかしな質問をしてしまったらしい。



「それでもめげずに教える姿勢を崩さない澤田君に好感を抱くね」


「そりゃどうも」


「授業にも出るようになったんだって?先生たちがさっき職員室で大はしゃぎしてたよ」





慶彦が生徒会新聞の最終チェックをしながらニッと白い歯を見せて笑う。


そっか。先生たちが……。


きっと我が校きっての天才がやる気を出したと思って喜んでいるんだろう。



澤田君と同じクラスの子がしていた噂話いわく、今日の先生たちは感慨深い表情で宙を見つめ、目に涙を浮かべていたそうだから。


そこまで人の感情を動かせるなんて恐るべし、澤田君。




「さすがですね、澤田君」


「別に。いつまで授業に出るかわかんねぇし」



しかし、澤田君はあまり嬉しくないみたいだ。


ふてくされた顔でそう呟くと、そこから永遠と黙り込んでしまった。

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