第31話

「献上品です」



 そう言って、私は友香ちゃんにすっと差し出す。最初はよくわからないみたいな感じで首を傾げていたけれど、ちょっと考えてから「ああ」と納得して私の手から小さな箱を受け取ってくれる。


 もそもそと箱の蓋を開ければ、昨日友香ちゃんからリクエストを受けたフルーツタルトがちょこんとのっていた。



「昨日、ごめんね。本当にごめんね……お姉ちゃん意外と直感で行動すると言うか、思いついたら一直線の猪突猛進なところがあると言うか……」


「気にしてないから大丈夫。むしろ途中までは面白かったから」


「途中まではって……」


「いや、あのまま本気でタコパになったら流石に辛かったから……」


「そうだよね!? ごめんね!?」



 私は慣れているけれど、そうじゃない人からすると結構きついものがあるんだと自覚する。……今度からちゃんとストッパーになろう……。



「ところで、これっていつの間に作ったのよ…?」


「あ、昨日友香ちゃんとお姉ちゃんが帰ってからだよ。ちゃんと冷蔵庫に入れておいたから痛んでないと思うよ!」


「そんな心配してないわよ。人数分作ったの?」


「? うん。だってみんな食べたいって言ったし…」


「……律儀ねぇ」


「そうかな?」



 こてっと首を傾げて友香ちゃんの言葉に答えれば、なぜかため息をつかれた。……解せぬ。



「それよりも、前々からずっと思ってたけど、あの幼なじみは諦めてくれたのかしら?」



 友香ちゃんのその疑問に、私は体をびくっとさせる。こうして反応するのはある意味の条件反射だろう。


 そんな私の様子を見つめつつ、何かあったわけではないと察した友香ちゃんはとりあえず私の反応には何も触れずにいてくれるらしい。



「人数分作ったってことは、草薙さんの分も作ったの?」


「うん」


「反応はどうだったの?」


「?」


「? 反応は? 美味しいとか言われなかったの?」


「ああ! その場で食べないでくださいって言ったから、知らないの」


「……………は?」


「えっ?」



 突然の友香ちゃんの低い声に私はびくっと体を跳ねさせる。何かまずいことを言ったのだろうかと思い、友香ちゃんを見つめていると、その表情が徐々に険しくなっていく。


 ………こ、こわっ!!



「綾、ちなみに聞くけど、なんでそんなことを言ったのよ」


「え、だ、だって……おいしくないって言われたらなんかショックだし……」


「そんな理由?」


「うっ……」


「他にもあるのね。ゲロっていきなさい」


「友香ちゃん、表現……」


「早く」


「だ、だって……美味しいよって言われるのもなんか怖いんだもん……」


「何が怖いのかわからないわよ……」



 そう言って、友香ちゃんがため息をつく。その様子に私はのどから唸り声を出して抵抗を試みるも、うるさいとピシャリと言われてしまい黙りこくるしかできなくなってしまった。

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