第30話

そんな私の様子を見て、シエル様がうんうんと頷いていた。



「ちゃんと自己防衛もしているのね。偉いわ。大丈夫よ。私もちゃんと入るし、何かこいつが変なことをしたら、股間蹴り上げてあげるから」


「ちょ、シエル様、恐ろしいこと言わんでください。あなたにそんなことされたら再起不能に……」


「何か文句でもあるの?」


「イエ、ナニモアリマセン」


「そう。だいたい、不埒なことをしなければ何もないのだから、安心してちょうだい」


「……時々理不尽なことをするから信用できんのだってば」


「何かいったかしら?」


「いえ何も!」


「そう。さ、ほらほら、入るわよ。えーっと……?」



 シエル様が私を見ながら考え込んで、ようやく私は自分が名乗っていないことを思い出す。慌てて、私は口から言葉が出てきた。



「フ、フレスカと申します!」


「そう、“フレスカ”。じゃ、入りましょうか」



 気づけば、あれよあれよと言う間に私は部屋の中まで押し戻されてしまっていた。


 私とともにシエル様が入ってきて、その後に続くようにアレクと呼ばれた人も入ってくる。


 カチリと言う音が響いて、私は少しだけ慌てた。



「あのっ、アレク様!」


「呼び捨てでいいんですよ。どうせ僕はシエル様の下僕なのでー」


「下僕……っ!? あ、いえ、そんなことよりも……」


「うわぁ……なんかすっごい簡単に流されちゃってちょっと虚しくなりますねぇ……」


「え、あ、あの、ご、ごめんなさい……! そんな、深い意味はなくて、いえ、あの、げ、下僕は良くないですよ! で、でもそれよりも……っ!」


「僕の存在なんてそんなものなんですって。いいですよー、別に気を使ってくれなくてもー」


「鬱陶しい男ね。なんなら本当に再起不能にしてあげるけれど」


「ごめんなさい。なんでしょう、“フレスカ”様!」


「……あ、えっと、その……ご気分を悪くされたのでしたら、謝罪いたします。申し訳ありません」


「え」


「私は本当にダメですね。自分のことばかりに気を取られて、相手の方のことを考えることができなくて……。不愉快にさせるばかりで……。本当に、本当に申し訳ありません……」


「ま、待った待った待った!! そんな恐縮しないでください! 僕が悪かったです! 僕が悪かったんです、ごめんなさい!!」



 自己嫌悪に陥っていると、アレク様がすごく慌てたようにそう言葉を紡いでくれたけれど、それすらも私には申し訳なくて、顔をうつむかせてしまう。


 やっぱり、私は他人と関わるべきではないのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る