第29話

と、お仕着せを着たその女性が、私が戸惑っていることに気づいたのか視線を向けてくれた。


 ほんの少しつり上がった瞳はその意思の強さとともに、凛とした空気まで醸し出して、どことなく高貴な雰囲気が伝わってくる。



「ああ、ごめんなさい。あなたに会いたくて、こんな格好をしていたのだけれど…。私はシエル。シエル・レイ・ロトメールよ」


「……ろ、ロトメール……ッ!?」


「そう。まぁ、あの国の第一王女。王位継承権も持っているわ。今回ここに来たのは、あのマリンフォレスの王太子であるマレに呼び出されたから。本当は両親が来たがっていたのだけれど、国を空けさせるわけにはいかないから私が来たのよ」


「ロトメールの第一王女様っ!? 呼びつけるって……っ!?」


「まあ、マリンフォレスとは友好国でもあるから。昔から良く遊んであげていたのよね。その関係もあってか、あのこ生意気なガキ、私の容赦ないのよね」


「…………あ、あの……わ、私は、いえ、その……私に会いに来られても、私は、何もして差し上げられないのです」


「何もできない?」


「は、はい……。両親の愛情は“妹”であるフルールに向いていますので、私と接点を持ったとしても、私はなんの役にも立たなくて……」


「あら、そんなこと別に望んでいないからいいわよ」


「で、でも……」



 わざわざあの最大国家のロトメールからの使者としてこの方が来たのだ。何かしらの意味がないとこんなところにまでは来ないだろう。それに、なぜ私に会いに来たのだろう?


 そもそも、私はこの国では存在を隠されたような人間だ。外からの訪問者であるこの人が、なぜ私の存在を知っているのだろうか。


 いや、それよりも前に、この人はマリンフォレス様に呼ばれたと言っていた。


 では、この人に関しては、マリンフォレス様から聞いたのだろうと予想できる。けれど。



(……マリンフォレス様は、どうして私の存在を知っていたの……?)



 隠された人間。その存在を知る者は、このフロル国でも一握りしかいないはず。それなのに、なぜ?



「さて、思考の淵から上がってきてちょうだい?」


「!」



 そう言われて、ハッとする。私は目の前にいる女性を見つめて、その人は、私を見つめながら、私に向かって優しく微笑んでくれていた。



「目が腫れているわね。冷やさないと。アレク、きてちょうだい!」


「はいはーい」


「っ!?」


「相変わらず軽いわね。いいから、目元を冷やしてあげたいの」


「了解でーす。さて、じゃあここでは目立ってしまうので、中に入っても?」


「え、あ、あの、それは、ちょっと……」



 突然現れたように見えたその人に、私は思わず難色を示してしまう。なにしろ出てきた人は男性だ。流石に部屋に入れるのはためらいがある。

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