第27話

――“フレスカ”。この国の、第一王女という偽りの称号・・・・・を持つ女性。


 もっと早く知っていれば、助けに来ることができたというのに。なぜ、教えてくれなかったのだろうか。それとも、ジュード自身がこうして暴走するとわかっていたからこそ、黙っていたということなのだろうか。


 そう、今更考えても仕方のないことをぐるぐると考え、そして、やめた。


 そう、今更なのだ。



(……今更、そんなことを言われたって無理だ)



 大切な大切な宝物。


 奪われてはならなかったもの。


 それでも、奪われてしまったのだ。


 ならば――。



(何をされても、文句なんて言われる筋合いはない、ってね)



 薄暗いその場所で、ジュードが薄く笑みを刻んだのを知るのは、その場にいて、フルールと相対しているはずのマレだけだった。






 ――さぁ、準備は整いだしているのだ。



 ――我が国・・・を怒らせた代償を、思う存分、味わうがいい。






**





 あれから、さらに日にちが経ち、私は憔悴しきっていた。


 何を出されても、何も食べられない日が続き、それでも死んではならないと自分で言い聞かせて、なんとか味のない、ただの塊を胃に収めて、なんとか凌いでいる。


 それでも、たったあの三日間だけで、彼が、彼らが、私に与えてくれたぬくもりはとても大きくて。暖かくて。


 それが傍にないことが当たり前だとちゃんと自覚もしているのに、心が、感情が、その“自覚”に落ち着いてくれなくて、苦しさを感じる。


 わかっている。一度味わって仕舞えば、それを手放すことがとても困難なことなのだと。


 一度手を伸ばして仕舞えば、その後に、その行動を止めることがとても困難なことなのだと。


 それでも、私は。



「…………会いたい……」



 会って、話をしたい。


 何か特別な会話があるのかと言われれば、何もない。ずっと閉じこもって生活をしてある私に提供できる話題なんて、これっぽっちもない。そんなこと、分かっている。


 フルールのように可愛いわけではないのに。


 フルールのように社交的なわけではないのに。


 それなのに、私はそれがないとわかっているはずなのに、マリンフォレス様やジュード様は私をちゃんと待っていてくれると勝手に思い込んでいる。



「私は……こんなにも…わがままだったのかしら……」



 思わず、自嘲の笑みが溢れでる。


 目が痛い。ほぼ毎日、泣き暮らしているのだから当たり前だ。まぶたも腫れぼったくなっているし、とてもではないけれど、人前に出られるような姿ではないのは自分でもわかる。

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