第26話

それを思ったのは、マレだけではないようで、ジュードもはたから見たらわからないけれど、見るものが見ればわかる、その表情をしていた。



「けれど」



 憐れまれているとも知らずに、フルールがぴしりとそう声を発する。



「それは、わたくしがマレ様のために作らせた紅茶なのですよ。それを、わたくしの許可なく飲むとは、恥を知りなさい!」


「それは、大変申し訳ございません」


「言葉だけなの? 本当にそう思って煽るのなら態度で示して見なさいよ!」


「お言葉はごもっともです。ですが、主人の前で、俺が主人以外の方にへりくだってしまっては、それは俺が主人をその方よりも下だと認識してしまう証になってしまう。ひいてはマリンフォレスという国自体を貶めてしまうことになってしまいます。ここは、どうかが寛大なお心でお許しくださいませんか?」



 頭を下げることもせず、ただ、にこりと微笑んだまま、ジュードはそんなことを宣った。


 ジュードのその言葉と態度に――どこまで真剣に聞いているのか分かったものではないが――気分を良くしたのか、まるで勝ち誇ったかのような笑いを見せるフルールに、内心で憐れみながら、それでも、気分を良くしたのならいいこと思い、そのまま放置する。


 その後も、何かと言葉を連ねていたが、ジュードはマレがこれ以上相手にするなという視線を送ってきていることに気づいていたので、我関せずを貫き部屋の隅まで下がって待機する。



(……それにしても、聞くに耐えなきことばかりを言うんだな、こいつは)



 内心で、ジュードはそう非難した。そう表現するしかできない。



(そもそも、今話している相手がマリンフォレスの“王太子”ということをきちんと自覚しているのだろうか? ただ、夢見がちで、物語の王子様のように考えているのなら、お門違いもいいところなのだが)



 そもそも、マレという人物は“王太子”。次にマリンスォレスという大国を統べる者の称号を持つ男だ。


 表面上だけを見てやってくる女は、後々痛い目にあっているのを、ジュードは知っている。何度かなだめたこともあるほどなのだから、その数は相当なものなのだろう。


 そう考えると、きっと今必死にマレに気に入られようとしているあの小娘も、結果としては目に見えた結果を起こす行動をしている。



(……だから気に入られたとか、思いたくないんだけど)



 彼女は――“フレスカ”は、そういう面ではこの小娘とは真逆の人間だった。

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