第25話
「マレ、本当に面白いですよ、これ」
「なんでだい?」
「この紅茶、催淫剤が入ってます」
「……は?」
けらけらと笑いながらそんなことを話したジュードを見て、マレは思わず素に戻ってそのまま聞き返してしまった。
かちゃりと茶器を戻す音がして、それはジュードが紅茶の入ったカップを元の場所に戻した音なのだと理解する。そして、マレはそれはもう驚くほどのため息を長くついた。
「……何がしたいんだ……」
「既成事実が欲しいんじゃないですか? それよりも、薬草栽培が盛んな国だというのに、この程度の催淫剤しか作れないんですかね?」
「何恐ろしいことを言ってるの、ジュード」
「いや。これなら中和剤飲まなくてもなんとかなったなーと」
「赤裸々に語るのはやめてくれ」
そう宥めていると、こん、と扉を叩く音がする。二人がなんだ、と思って顔を見合わせていると、返事もしていないのに扉が勝手に開けられる。
それに、お互いに顔を思い切り顰めていると、フロル国の王女――フルールが、何かを期待したような瞳でマレを見つめながら声をかけてきた。
「マレ様!」
「…………ああ、どうされたのですか?」
なんとか表面上だけでも笑みを取り繕って言葉を返すが、その内心は荒ぶっている。
入室の許可もしていないのに入ってくるとはなんという礼儀知らずなのか。それも、同性ならばまだ目を瞑るが、異性の部屋に。
もしここにいるのはマレ達ではなく、違う男だったのなら、間違いなく夜這いの類に入り、そのまま襲われても文句など言えたものではない。
いっそそういった状況を作ってやろうかも本気で考えかけて、その思考をジュードの咳払いが中断させた。
「ご用意しておいた紅茶は飲まれましたか? 一番高級なものを用意させたのです!」
「……そうなのですね。ですが私はあまり紅茶は飲みませんので、ジュードに代わりに飲ませましたよ?」
「えっ!? ……あぁ、でも顔はいいのよね……」
「………………」
聞くに耐えない言葉を吐き出した目の前の女に、マレは本気で殴りかかりそうになる。
その前に、またしてもジュードが止めてくれたけれど。
「とても美味しゅうございました。ですが、俺にはすぎたものでしたね。とてもではありませんが、飲めませんでしたよ」
「そう? ま、あなた程度が飲めただけでも感謝しなさい」
傲慢。わがままで、全てが自分の思い通りにことが進むと思っている、頭の中が空っぽな、いっそ哀れな娘。
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