第6話

すっと、マリンフォレス様が私を覗き込んでくる。噂通り、とても美しい金髪がさらりと揺れて、日の光を反射している。宝石はめ込んだかのような碧眼が、私を見つめている。



「顔色が優れませんね。行きましょうか、姫君?」


「……!?」


「足元にお気をつけください」


「あ、あの、私は一人で……っ」


「途中で倒れたらどうするおつもりですか?」


「と、途中でメイドを捕まえて一緒に行動しますから……っ」


「嘘ですね」


「!?」



 なんでこんなにもこの人は粘るのだろう。そもそも、私という存在は、今日この場にいていいものではない。両親からの突然の命令で、私は突然この場に呼ばれただけに過ぎない。


 “妹”の婚約者となる人のお披露目という、くだらない目的のために開かれたお茶会だ。


 普段こう言った場所に出席しない私は自分が粗相をする前にこの場から立ち去るつもりでいたのに、目の前にいる人がそれを許してくれない。



(どうして……?)



 なんの価値もない私を気にしても、いいことなど何もありはしないのに。


 困惑の表情で、私は縋るように彼を見つめてしまったのだろう。


 まるで私を安心させるように、彼が私に向かって優しく微笑んで言葉をかけてくる。



「私が、あなたを守って差し上げます」



 言われた言葉の意味がわからなくて、ぽかんとしてしまったけれど、私のその一瞬の隙を流すことなく、彼はくん、と私を強引にエスコートしてその場から立ち去ってしまった。


 背後では、強い憎しみのこもった瞳で“妹”が私を見つめていることなど、この時の私が気にする余裕などあるはずがなかった。





**




「はぁー……ようやく抜け出せました」


「…………え?」


「すみません。あなたをだしに使うような真似をしてしまい」


「……………いえ、お気になさらないでください」


「それは良かった」



 私の目の前で、大きく息をついてその場に座り込んでしまったその人を見つめて、どうすればいいのかと考える。


 本当ならその場において行きたかったのだが、あいにくと私の手首はまだ彼が拘束していて、彼から離れることは物理的に不可能だ。当たり障りのない言葉を返すしかできない。



「これでようやく、あなたとゆっくりと話すことができますね、姫君」


「……申し訳ありませんが、私はあなた様とお話しすることなど……」


「では、私の一方的な言葉を聞いてください」



 私に対して、全く拒否権をくれない。


 この人も、家族と同じなのかと思った時。



「私は、あなたに惹かれました。どうか私の伴侶となっていただけませんか?」



 ……とてもではないが、信じられない言葉が彼から出てきたのだった。

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