第5話
このままここを立ち去って仕舞えば、後から私の元には、また“妹”が来てしまう。それだけはできるだけ避けたいと、私の脳が警鐘を鳴らす。
私は、とても無礼な行動をすると理解していても、私の手を優しく握ってエスコートしてくれる彼から己の手を奪い返して、足を止めた。
「……どうなさいましたか?」
「……私は、少し気分がすぐれませんので、木陰で休ませていただきますわ。その間、あの子があなた様のお相手をしてくれるはずです」
そう言って、私はちらと“妹”に視線を送る。
それに気づいた“妹”が、女の顔でとろりと微笑んでこちらまで歩んできた。
「まぁ、お姉様、お体は大丈夫なのですか?」
「……ええ。少し休めば平気よ。その間、あなたがこの方のお相手をしてくれるのでしょう?」
「もちろんですわ。だって、わたくしは“婚約者”ですもの。当たり前のことです」
厳密に言えば、マリンフォレス様がおっしゃる通り、まだ予定の段階のはずなのだが、どうやらこの子は自分が選ばれるのは当然のことだと思っているらしい。それはそれでいいけれど、できれば面倒ごとを起こさないでと思いながら、私はできるだけ丁寧にカーテシーをしてしてその場から離れようと背を向ける。
背後では“妹”が婚約者になるであろう男性に甘えた声が聞こえてくるけれど、それはもう私には関係のないことだ。
――そう、思っていたのに。
「……………………え?」
立ち去ろうとする私の手首を何かが握る。不思議に思って振り向けば、そこには“妹”が婚約者と豪語している男性。
なぜその状況になるのか意味がわからなくて、小さく声を出してしまったが、驚愕しているのは私だけではなく、“妹”も同じだった。
「待ってください」
声をかけられたけれど、手首を掴まれているのだから待つ以外の選択肢など存在しない。困惑の表情で彼を見つめていると、にこりと微笑みが返ってくる。
「私があなたに付き添いましょう。見たところ、あなたは専属のメイドをつけていらっしゃらない。途中で倒れては大変ですから」
「…………」
まずい、そこまで考えていなかった。
確かに、私には専属のメイドはいない。捨て置かれている存在なのだから、当たり前だ。立ち去るときも、一人で行動するのが当たり前だったため、周りで給仕している彼女たちに声をかけることなく立ち去ろうとしていたのだから、私に専属のものが付いていないことは、見る人間が見ればわかる事実だ。
どうやってこの場を切りぬけようかと頭を回転させているけれど、いい案が浮かばない。焦りが出てきたのがいけなかったのだろう。
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