第4話

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 目の前の現象に、私は理解が追いつかなくなる。どうしてこうなってしまったのだろう。何があってこうなってしまったのだろう。


 身を小さくして、出来るだけ私という存在を消すように努力するのに、“その人”はそれすらも許してくれない。



「あなたが姉君ですか?」



 にっこりと微笑みながら私にそう話しかける青年に、私はできるだけ視線をそらせることしかできなくて、それでも何も言わないわけにはいかないので小さく、本当に小さな声でしか答えられなかったけれど、なんとか言葉を返す。


 普通ならば、私の言葉など誰も聞いてくれないのに、この人はなぜか私の言葉を聞いてくれるらしく、「やっぱり」と少しだけ嬉しそうに声が弾んだ気がして、胸がどきりとする。


 ちらと視線を声の方に向ければ、輝かんばかりの笑顔がなぜか“私”に向いていて、思わず視線を逸らしてしまった。



「ああ、紹介が遅れて申し訳ありません。私は隣国のマリンフォレスの王太子、マレ・アクア・マリンフォレスです。よろしく」


「……私は……」


「マレ様、こちらにいらして!」


「……っ」


「ああ、フルールさん。でも今、私は…………」


「マレ様はわたくしの婚約者となられるのでしょう? よその女にうつつを抜かさないでくださいませ?」



 うつつを抜かすって、他国の人間と会話をするのはとても大切なことだと思うんだけれど。それとも、相手が私だからそんなことを言うのだろうか。


 まぁ、どちらにしても、これでこの人も“妹”の方へと行くだろう。あの子は可愛い。そして私は地味だ。見た目的な問題からしても、私はあの子には敵わない。結局一人ぽっちになるのは必然の出来事なのだ。仕方がない。


 そう自分に言い聞かせていると、王子は、スッと立ち上がって、私に背を向ける。


 ああ、行ってしまう。


 ほんの少しの寂しさを感じながら、私はそれが当たり前の出来事なのだと受け入れようとしたのだけれど……。



「フルール嬢。私は今、あなたのお姉さんと話をしております。これからあなたとの婚約を控えていると言っても、それはあくまで“予定”であり“確定”ではないのです」


「マレ様……?」


「ですので、私の行動にいちいち口出しはしないでいただきたい。私は別に、あなたと婚約しなければならないわけではないと、覚えて覚えておいてください?」


「な……っ!?」


「では、姉君? 少しあちらで私とともに話をしていただけますか?」


「え、あ、あの、私は…………」


「さぁ」



 そう言って、彼――マリンフォレス様は自然な形で私の手をすくい上げてエスコートしてその場から離ようとして歩き始めてしまう。

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