第28話
「ああ、とても楽しいな。この状況で、“本当”を理解しているのは彼女だけか。まあ、この場には三人しかいないのだがな。しかし、それでも、“秘匿”とされ外との関わりをおそらくあまり持たされなかったであろう彼女の方が優秀とは、これいかに!」
声をあげて笑いながらそう言った彼に、白紅麗はさらに混乱する。なぜ、今この場でそのようなことを言うのか。しかし、それを見通したように彼が白紅麗に声をかける。
「お前が理解していることを、今目の前にいる男は理解していない。それだけのことだ」
「……え」
彼のその言葉に、白紅麗はさらに混乱する。まさか、白蓮がそのように単純なことがわからないなどと言うはずがないと思ってしまったのだ。
そもそも、白紅麗と違って、白蓮はきちんとした交流を持っている。白紅麗と違い、情報も入って来やすい。それなのに。
ぐるぐると考えてもなかなかわからない。そんな白紅麗を観察するように見つめて、彼はふっと笑った。そして、何も言わずに、抱き寄せている白紅麗を部屋の中へと連れて行こうとする。
それにハッとして、白紅麗は声をかけた。
「お、待ちください! 兄が言ったように、私は……っ!」
「その汚らわしい口で、俺を兄と呼ぶな、“妖”風情がっ!!」
「!!」
自分の発言の過ちに、白紅麗はぐっと表情を歪める。白紅麗のその発言にすぐに反応したのは、恐らく、条件反射のようなものなのだろう。それほどまでに、白紅麗はこの家中の人間に嫌われている。
そんな会話を流れで聞いてしまった彼は、笑みを深めた。
「では、貴殿がここに来るのはおかしなことだな。邪魔をするなよ」
そう言って、彼は今度こそ完全に白紅麗の部屋の中に身を引っ込めてしまった。
何が起こったのかいまだに理解が追いつかず、白紅麗は必死に考える。
そんな白紅麗を見て、彼は微笑んだ。
「お前は、きっとこの家の中で一番賢いな」
「……!」
「名乗らずとも、俺の身分を分かっていたのだろう?」
「そ、れは……」
「俺のもとにこないか、白紅麗」
「……私は……」
「お前をちゃんと守ってやれる。この家とも絶縁させてやれるんだ。どうだ?」
目の前の彼の言葉に、白紅麗は少しだけ考えた。けれど、ゆるりと、首を振る。
「……もうしわけ、ありません。私は……ここにいます」
「なぜ?」
「妹もおりますし、何より……私は、向き合わなければならない方がいるのです」
「それは、先ほどの無能な兄か?」
「いえ」
「では、お前を迫害し続ける両親か?」
「いえ、違います。……この家で、私を受け入れてくれた人がいるのです。その人に、私の気持ちをきちんと伝えなければなりません」
「……男か」
「はい。ですので、あなた様のそのお言葉に頷くことはできないのです」
そう言って、白紅麗は小さく笑みを作った。
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