第27話

結局、彼に手を引かれたまま白紅麗は自室まで戻って来てしまった。自室を出るときにかぶっていた衣は、知らないうちに彼が手に持っている。いつの間に、と思いつつも、白紅麗はこの状況に混乱していた。


 すっと襖の開く音がして、白紅麗はハッとした。そして、流石に声をあげた。



「お、お待ちくださいっ! あの、私は……っ!」


「ああ、いい。大体わかった」


「!?」


「が、俺はそれを跳ね除ける力を持っている。それだけで十分だ」


「い、いえ、そうではなく、このようなところを、我が家の誰かに見られたら――」



 白紅麗がそう言った瞬間だった。



「何をしているっ!?」



 聞こえて来た声に、白紅麗は体をびくりと揺らし、強張らせる。それは、白紅麗の手首を掴んでいる相手にも伝わるもので、彼は眉をひそめた。


 白紅麗は後ろを振り向く。そこには兄の白蓮がものすごい形相でこちらを睨みつけていた。


 しかし、怯えた白紅麗を守るように彼がすっとその間に割って入ってくる。



「今は俺が彼女と面会中だ。何用で?」


「……戯言を。それは人間ではない。禍を受けたくないのなら、即刻に離れるがいい」


「面白いことを言うな。そも、このかなどめ家の姫は一人と報告を受けていたのだが……まさか、このように秘匿された姫君がいたとはな」


「な……っ」


「もう一度問おう。今は俺が、彼女と面会中だ。何用でここに来た」



 彼の言葉に、白蓮がたじろぐ。しかし、何かの使命感に駆られたのか、きっと強く睨み返して言葉を吐き出す。



「悪いが、そいつは面会ができるようなものではない。貴殿が見たのもまた、まやかしであろう。離れろ」



 白蓮の言葉に、白紅麗は顔を真っ青にしていく。それと比例するように、彼は心底楽しそうに表情を作る。


 そして、白蓮から視線を逸らし、白紅麗を見つめた。


 白紅麗は白蓮の発言に蒼白になったその表情で彼を見上げていた。何かを言うために、その口を小さく開いていたが、すぐに閉じる。


 それを見て、彼は白紅麗が自分の身分を確実に理解しているのを理解する。それが、楽しくて、そして嬉しくて。彼は白紅麗の手首から手を離した。しかしすぐにその華奢な肩を抱き寄せた。



「っ!?」



 声にならない悲鳴を喉の奥でくぐもらせながら、白紅麗は混乱のさなかに叩き落とされた。


 それは、その状況を見ている白蓮も同じだった。

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