第26話

「……姉様まで、そんなことをなさるのですか……?」



 白雪姫のその言葉に、白紅麗も悲しそうな表情を作る。しかし、それを一瞬で消して、白紅麗は白雪姫に言った。



「……私たち貴族の、義務よ。確かに、私は“妖”と呼ばれ、あなたのように義務をきちんと果たしていないけれど、いづれそれを、受け入れなければならないということはわかるわ」


「姉様……」


「私のせいで、白雪姫に迷惑をかけているのは分かってるわ。本当に、ごめんなさい」


「ね、姉様、謝らないでくださいっ、わたくしも、ごめんなさい……っ!」


「あなたのために、私もできることはするつもりでいるわ。けれど、いつか必ず私はあなたのそばにはいられなくなる。あなたが一人で立ち向かわなければならない時も必ずあるのよ。だから……」


「……姉様、わたくしは、それでも姉様と離れたくないのです」


「白雪姫……」



 ぽつりとこぼされた白雪姫の言葉に、白紅麗は困惑する。これほどまでに自分に執着しているとは思っていなかったのだ。


 白紅麗はゆっくりと白雪姫に手を伸ばした。けれど、白雪姫に触れる前に手が止まる。


 ゆっくりと降ろされた手は、その後も白雪姫に伸ばされることはなかった。



「……姉様……」


「……白雪姫、ごめんね。…………申し訳ありませんでした」



 白雪姫にそう言葉をかけてから、白紅麗は後ろを振り向いて男性にそう謝罪する。白紅麗と白雪姫の二人の成り行きをずっと黙ったまま見守っていた彼は、白紅麗のその言葉にも特に動揺を見せることなく、軽く首を左右に振った。



「……いや、いい。気にするな」


「妹は、とてもいい子なんです。それだけは、どうかご理解ください」


「ああ、分かった。……ところで、俺は妹君よりも、お前の方が気になる。いいか?」


「…………え?」


「ここでは邪魔になるか……。お前の部屋にもう一度案内を頼む。そうすれば、その煩わしい衣も全て取り外して、俺と会話をしてくれるのだろう?」


「え、あ、の、待って……、待ってください。あなた様は、妹に会いに来たと……!」


「だから、気が変わったと言っただろう? 悪いな。姉を借りていくぞ」


「えっ!?」


「姉様っ!?」



 そう言われたかと思うと、彼は白紅麗の手首をがっしりと掴んでそのまま歩き出してしまった。


 驚いた白紅麗は思わず抵抗してしまうが、そんな白紅麗のか弱い抵抗などないも同然で、気にすることなく、彼は来た道をさっさと戻る。


 それに戸惑いを隠せないまま、白紅麗はされるがままになった。

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