第31話

「……それよりも、この二人をどうするのかが問題かと思いますけど」



 そういった柚葉の視線の先には、しっかりと縄で縛られた侵入者たち。縄は皇と大和の二人が縛っていたので、すごく痛そうである。跡が残りそうだな、とぼんやりと考えていると、白雪に声がかけられた。



「白雪」


「? はい?」



 皇の声に反応して顔をそちらに向ければ、少し考えるようなそぶりをしている。どうしたのだろうかと首を傾げつつ、皇を見つめていると、何かを決意したような顔し、白雪を見た。



「白雪、大和から聞いたんだが……」


「……もしかして、“力”のことですか?」


「! あ、ああ……、その“力”、具体的にどういうものなのかを教えてくれないか?」


「……」



 皇の言葉に、白雪は詰まった。具体的に、といわれても、白雪ができる説明は一つしか存在しない。



「……傷ついた相手の傷を、病に侵された相手の病を、その人からなくすのが、私の持っている“力”です」



 端的に、正確に言うのならそれ以外の説明はない。


 困惑しながらも、そう説明した白雪に、皇はさらに言葉に重ねた。



「その力を使うことによって、白雪自身に何か影響があったりしないか?」


「そう、申されましても……」



 白雪は口ごもる。力を使えばもちろん、体は疲れる。精神的にも辛いことなのだから、体が疲労を訴えかけてくるのは当たり前だ。


 けれど、皇が聞きたがっているのは、多分、そう言うことではないのだろう。


 彼は何か違うこと――そう、白雪がその力を使うことにより、白雪自身へ本当になんの影響もないのかと問うているように見える。


 疑っている――多分、その表現が一番正解に近いかもしれない。


 皇は疑っているのだ。


 けれど、白雪は言わなかった。



「特には。確かに力を使うことにより、体への負担はありますが、日がたてばそれは治るものですし」



 白雪の淡々とした言葉に、皇も何か違和感を覚えたけれど、それ以上は突っ込むこともできず、結局は白雪のその言葉に納得するしかできなかった。


 それをただ見ているだけしかできない大和と、白雪の事情を知っていて黙している柚葉と。二人の温度差はあったが、それに大和も、もちろん白雪のみに視線を向けていた皇も、気づけるはずがなかった。



「……長居しすぎたな。そろそろ“異界”の方へ戻るか」



 皇がそういって立ち上がる。大和も続いて立ち上がった。



「あ……、助けていただいて、本当にありがとうございました。私も、柚葉も。おかげで無傷ですみました」



 立ち上がった二人に、白雪は改めて頭を下げてお礼を言う。


 その白雪の様子に、皇が少しだけ笑みをこぼした。

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