第30話

数刻後――。



「……本当に、申し訳ございませんでした」



 目覚めた白雪は、目の前にいる男性に思い切り頭を下げていた。白雪のすぐ後ろには、つい先ほどまで皇の角やら肌やらを堪能していた柚葉が、ものすごく落ち込んだ状態で座っている。



「いや、その……気にするな。オレも、別に止めたわけではなかったし……」


「それは、いきなり異性に触られたからでしょう? それも、なんの遠慮のもなく」


「いや……まぁ…………」



 言葉が見つからなくて、皇は言葉に詰まる。


 その瞬間、白雪の周りに吹雪が舞ったのは目の錯覚だと思いたい。


 くるりと体の向きを変えて、白雪は柚葉に向き直る。柚葉のからだがびくりと震えたが、白雪はそれを完全に無視して柚葉に呼びかけた。



「――……柚葉」


「ごっ、ごめんなさい!!」


「謝る相手が違うと、何度言えばいいのかしら?」


「そっ、そうですよね、はい! す、皇様でしたね? ね!?」


「あ、ああ……」


「先程は、本当に無礼なことをして申し訳ありませんでしたッ!!」


「いや……本当に大丈夫だから」


「本当ですかッ!?」


「柚葉ッ!!」


「すっ、すみません!!」


「……………………」



 それからしばらく、柚葉は白雪に叱られることとなったのだった。





 ――二人を突然襲ってきたのは、“鬼”だった。


 捕まえた破落戸ごろつきの布を奪えば、その額には鬼の証である角がしっかりと確認でき、白雪も柚葉も驚きを隠せないでいた。



「……すまない。オレたちの一族が、お前たちに危害を加えてしまったな…」



 深く、大きなため息をつき、皇は頭を抱えたくなる。


 極力“人”との面倒ごとは避けてきたはずなのに、ここにきてまさかの事態に、本気で頭が痛くなる。


 しかも、襲われ、攫われそうになったのがかつての“鬼姫”と同じような力を持つ少女だ。本当に、どうしてこんなことになったのかわからない。



「あの、私たちは特に怪我をしたわけでもなく無事なので、大丈夫ですよ?」



 白雪が気遣ってそう声をかけてくれるその心優しさに、泣けてくる。



「……だが、オレたち鬼がお前たち二人を襲ったという事実は変わらないだろう?」


「そうかもしれませんが、幸い大きなことにもなりませんでしたし、この部屋の中で収まっておりますので、問題ないかと」



 そう言いつつ、白雪は柚葉を見、柚葉も白雪の言いたいことを察して一度立ち上がり、部屋の襖を開けて周りを確認する。



「いつも通りです。なんの問題もありません」



 すっと襖を閉めて、柚葉が白雪のそばに戻っていく。すとんと白雪のすぐそばに座った。

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