第29話

「オレは皇。そこにいるちっさいのと仲間だ。決して、今、オレの足の下で苦しげに呻いている男の仲間ではない」


「……」


「ちなみに、勝手に入ったことに関しては後できちんと謝罪して――」


「……」


「……聞いているか?」


「……」



 目を見開いて皇を凝視する柚葉に、首をかしげる。


 柚葉がゆっくりと腕を上げて、皇を指差した。最初、それでも分からなかったけれど、柚葉の放った一言でしまったと思う。



「それ……額に、角……!?」


「!!」


「ま、さか……あなた達、鬼なの……ッ!?」



 なにも考えずに行動してしまったことに後悔するけれど、もうバレてしまったのなら仕方がないと開き直った皇は肯定した。



「……そうだ。オレたちは鬼族だ。だが聞いてくれ。決してお前たちに危害を加えようとしたわけでは――」



 柚葉の体が震える。まずい、悲鳴をあげられる。


 そう思って大和に視線で大声を出させないようにと訴えれば、それをきちんと汲み取った彼が頷き、柚葉に近づいた瞬間。


 大和の気配を察知したのか、それとも偶然なのか。柚葉はだっと走り皇の方へと駆けて行く。それに驚いて皇は思わず目を見開いて柚葉を凝視してしまったが、相手は全く気にすることなく、皇との距離を詰めた。


 そして、手を伸ばし、皇の角に触れた瞬間、子供のように瞳が輝いた。


 まさかの相手の行動に、皇は反応ができないでいる。



「す、すごいーっ! 本物、本物だわ! わーっ、感激ッ!!」


「…………え?」


「初めて会ったわ! やっぱり昔話は夢物語などではなく本当のことだったのね!」


「……」


「角はツルツルしてるのね! 長さは個体差があるのかしら? それとも、体と一緒に成長するとか?」


「……」


「ついでに肌も触っちゃえ! ……うわっ! もっちもち! え、この人男の人よね? なんでこんなにも綺麗な肌なのかしら……。うーん……、姫様の肌もこのくらい頑張らないとダメね……」



 ぐにぐに、ぺたぺた、なでなで。


 両手を使ってあらゆるところを触りまくる柚葉に、皇は完全にどうすればいいのか分からなくなった。



「と、頭領……」



 大和も、柚葉の行動を止めるべきなのか迷っているが、触られている当の本人である皇が好きにさせていることもあり、結局見守っていることしかできない。


 おろおろとしている大和を少し遠く感じながら、それでも、皇は柚葉が満足するまで待つしかなかったのだった。

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