第26話

少年のような声に聞き覚えがあり、白雪は思わずそこに止まってしまった。


 そろりと、体を移動させて、白雪は辺りを見回す。けれど、やはり見つけられない。


 白雪は思い切って声をあげた。



「あ、あのッ!」



 白雪が声をあげたからなのか、警戒が辺りを包み込む。それにひるみそうになりながらも白雪は言葉を続ける。



「あの時、人に追いかけられていた方、ですよねッ?」



 震える声で、問いかけてみるが当たり前に返事はない。


 それでも白雪は声をあげた。



「怪我は、大丈夫でしたかッ? 後遺症などはありませんでしたかッ?」



 白雪は、心配だったことを勝手に聞くことにした。今までのこ“力”を使って相手に何かが残ることはなかったが、それは“人”に対してだけだ。


 もしかしたら“鬼”相手では違うのかもしれない。それに気づいてからはそのことが気になり。相手の事が心配でならなかった。


 先ほどの声を聞く限りでは大丈夫そうではあるが、やはり本人から“大丈夫”という言葉を聞きたい。返答をしてくれる気がないのだとわかっていても、じっと我慢して、白雪は相手の言葉を待った。


 長いのか短いのか分からないほどの沈黙の後、ぽつりと声が呟かれた。



「だ、大丈夫。特に、問題は何もないよ」



 その言葉に、白雪はホッとした。



「そう、ですか。良かった……」



 白雪は、心の底からそう言葉にする。隠れている鬼の二人がそれに驚いていると知るはずもない。


 思わずだったのだろう。少年ではない声の主が、質問を投げてきた。



「あんたは、オレ達“鬼”という存在が怖くないのか?」


「え?」



 突然の質問に、白雪難く疑問を返す。



「あんたとは違う存在だろう? “鬼”は、人にとって裏切り者だ」


「……」


「それなのに、どうしてあんたはオレの仲間を助けてくれた?」



 本当に、そう疑問に思っているのだろう。白雪はそれを真摯に受け止め、そして紡いだ。



「――それは、過去のことであり、私には関係ありません。私の目の前で怪我をしている方が、たまたま“鬼”という種族だっただけです」



 驚きの気配がする。たしかに、こんな考えは甘いだろう。人は未だに“鬼族”を許していない。見つけては攻撃を仕掛けるのは、人が鬼よりも優位にいると思いたいからだ。


 そんなくだらないことで、鬼が血を流す。そんなことはおかしい。

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