第25話

極力、抑えた声で柚葉が白雪に報告をする。



「姫様のお客として来ていた男なら、きちんともてなして、帰っていただきました」


「も、もてなしては、くれたの?」


「ええ、最も萩乃が、ですが」


「柚葉は?」


「ちゃんと接待をいたしましたでしょう?」


「……そ、そうね」



 すごく威嚇していたけれど、あれを接待と言っていいのかしらと思いつつ、白雪は頷くことしかできなかった。


 萩乃がそんなおざなりな接待をしていないことを祈るしかない。



「……外、少し暗くなって来てるのね」


「ええ。もう夕方です。もう少しお休みになられますか?」


「うーん……あんまり眠り過ぎても、夜眠れなくなるのは困るわよね……」


「姫様のお肌のためにも!」


「それはあんまり気にしてないわ……。起きるわ。あと、よければなんだけど……」



 白雪が少し言いにくそうに言葉を濁したのを見て、柚葉が首をかしげる。珍しいこともあるな、とぼんやりと考えていると、白雪が言葉を続けた。



「なにか、食べたい……な…」


「へ?」


「……ちょっと、お腹が空いたの。朝に食べきり、だから……」



 意外な言葉に、柚葉はぽかんとしてしまったが、すぐに笑顔になった。



「――すぐに、ご用意して来ますね!」



 すくっと立ち上がり、いそいそと白雪の要望に応えるために、柚葉は部屋を後にする。恥ずかしい気持ちで柚葉を見送って、白雪は褥から移動する。


 単衣の上に衣をかぶせて、てくてくと移動しつつ、ちょっと外を見たいなと思い、襖の方へと方向を変えてそちらに向かって歩いていく。ほんの少しの隙間を開けて、周りに人や音がないことを確認してから、白雪は襖を完全に開ける。



「わ……、綺麗な夕日……」



 外を見ればあたりは夕日に照らされて赤に塗りつぶされている。


 その光景に感動しながら、白雪はしばらく外の景色を見つめていた。


 と。



「あったーッ!! 頭領、あったよ! ココ! ココだよッ!!」


「!?」



 小声ではあるものの、人の声が聞こえたことに驚き、白雪は辺りを見回す。



「大和、お前、記憶力なさすぎ……」


「し、しょうがないじゃないですか! 逃げるのに無我夢中だったんですから!」


「そうだとしても、もう少し覚えとけよ。もう夕方だぞ」


「それは……その……。………………スミマセン……」



 白雪は混乱していた。声は聞こえてくるけれど、姿は見えない。隠れているのだろうが、白雪としてはそれどころではない。早く部屋に入らなければ。


 そう、思っているのに。



(……この声……、聞いたことが、ある?)

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