××××

第15話

「バカだな……」




雅史は顔を歪めてそう言った。



呆れたように、項垂れるように。




「……雅史」



「気付いてねーじゃん」




そして次はバカにするように鼻で笑った。



とびっきり悲しい顔で。




「亜衣……」




また切なげに掠れた声で私の名前を呼ぶ。



その声が愛しくて悲しくて切なくなる。




「……雅史?」




泣きそうな顔なんてしないで。



やめてよ、雅史。



悲しまないで。



悲しさに押し潰されそう。




無性に泣きたくなった。



雅史が離れて行くような気がして。




そっと雅史の背中に腕を回す。



夢にまでみた雅史の背中。



触れることが出来る日がくるなんて思わなかった。




「亜衣」




いつもと違ってはっきりと名前を呼ばれた。



ゾクゾクするような力強い声で。



何かを決意した、そんな声で。





雅史はグッと私を押さえつけて小さく笑った。



嘲笑うような、愛しくて堪らないとも取れる複雑な表情を浮かべながら。




「……お前、ほんと何もわかってねー」




甘い声でそう囁いた。

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