第12話

そっと雅史の隣に体を滑らせた。



胸が痛くて苦しい。



息すらもまともに出来ていない気がする。




好きだよ、雅史。



好きなのに……。




「亜衣……」




雅史の“確認”の呼び掛け。



それに“沈黙”で答える。




ベットがギシっと音をたてる。



それが始まりの“合図”



いつもと変わらない、秘密の秘め事。



雅史を唯一独占出来る時間。




「ホント、寝つきいいな」




雅史はそう言ってそっと私の肌に指を滑らせる。




ねぇ、雅史。



寝つきがいいわけないじゃん。



いつも雅史が来るときは寝不足だよ。



わざとなの。



わざと寝たふりをしているだけだよ。



いい加減気づいて。




優しく触れる指も。



遠慮がちに口づけられる唇も。




「亜衣……」




切なげに呼ばれる名前も。




もう限界だよ。



錯覚するのも……もう限界なの。




「いい加減気付けよ……」




壊れるくらい愛して欲しいの。




「……気付いてないのは雅史だよ」




もう愛してくれないなら、解放して。

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